Note of the Snow Crystal Observation

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1.北海道で見られる雪の結晶

はじめに

 紅葉が終わり冬の季節風が強くなると、いよいよ雪が降り始めます。気温は下がり、日中でも氷点下の真冬日となるため、雪は解けずに「根雪」となって残ります。普段、私達は降ってくる雪を、粉雪・ぼたん雪・みぞれ等のように呼び分けますが、顕微鏡やルーペでそっと拡大すると、例えどんな雪でも、そこには雪の結晶の姿を認めることができます。

 「二つとして同じ形のものは無い」と言われている雪の結晶ですが、一度降り始め、空から無数の結晶がしんしんと降り続いてくるのを見ていると、中には全く同じ形の結晶があってもいいように思えてきます。実際に顕微鏡で観察してみると、その一つ一つが微妙に異なっており、新しい結晶を見るたびに新鮮な驚きがあります。そして、その精細なガラス細工のような雪の結晶は、辺り一面、無数に降り続いていて限りがありません。

 

 このホームページでは、北海道で筆者自身が撮影した雪の結晶や、一度レプリカを作製してからそれを撮影した写真を掲載しています。その不思議な姿の一部をご紹介したいと思います。

羊歯状結晶

              羊歯状

雪の結晶の分類について

 雪の結晶の形は、降る時の気象条件、主に気温と水蒸気の多い少ないによって変化することが知られています。それを明らかにした中谷宇吉郎博士は、「雪は天から送られた手紙である」と述べ、結晶の形や模様には、その時の上層から地表までの大気の状態が刻まれていることを示しました1)

 

 また、中谷博士等は、北海道の札幌市や十勝岳で観測を重ねて三千枚余りになる天然の雪の写真を撮影して、雪の結晶を、板状結晶、交差角板、無定形、針状結晶、角柱状結晶、角柱・板状組合せ、雲粒付結晶、の7種類に大きく分類する「雪の一般分類表」を作成しています(下図)。

 

 その後の研究 2), 3) により、雪の結晶はさらに細かく分類されることになっているようですが、中谷博士等の研究が主に北海道で行なわれていたことから、ここでは、この分類に沿って雪の結晶を呼ぶことにしたいと思います。

中谷による雪の一般分類

                                           中谷による雪の一般分類表1)より

 上の表では、中谷博士の一般分類表に出てくる雪の結晶について、その名称だけを並べました。したがって、それぞれの雪がどんな形のものかは少し分かり難いかと思いますが、中谷博士の著書では、雪の形状図とともにそれぞれの特徴が説明されていますので、そちらを見ると一目瞭然かと思います。

 

 しかし、その名称だけを見ても、北海道では実に様々な形の雪の結晶が降っていることがわかると思います。また、普段私達がイメージを抱く、形の整った六花状の雪の結晶(板状結晶の中の正規六花)は、広大な地域に無数に降っている雪の中の一部にすぎないことも理解できると思います。

星状結晶
角板状結晶
扇状結晶

星状

角板

扇状

雪の降るしくみと雪の結晶

 北海道でも、雪が降る時は、日本海側では季節風型による降雪により、太平洋側では低気圧型の降雪によってその大半がもたらされます。このように、雪の降る仕組みが異なるため、観察される雪の結晶にも地域による違いが見られる場合があるようです。

 

 例えば、日本海側の地域では、季節風とともに筋状の雪雲が列になって押し寄せ、雪を降らせますが、そこでは沢山の雲粒が凍りついた「あばた」状の雪(雲粒付結晶)や、あられ状の雪の場合が多いようです。一方、北海道中央部の大雪山の付近では、一度雪を降らせた季節風が山脈にぶつかり、そこで新たに生じた雪雲から雪が降ってくるため、結晶面が輝いて見えるきれいな雪が多く見られるということです 4)

 これに対して、冬の太平洋側では連日晴天が続きます。季節風に伴う雪雲は、大雪山の付近を通り過ぎる間に、その殆どが消えて無くなってしまうからですが、その代わり、太平洋側では時折やってくる低気圧がまとまった雪をもたらすことになります。そして、低気圧の北側に広がっている温暖前線に伴う雲からは、無垢の六角板や角柱を中心とする形の雪の結晶が降ってくるのが、その特徴であるようです 5)

 

 つまり、寒冷な季節風と豊富な湿り気の中から降ってくる雪と、比較的温暖な空気の中でゆっくりと成長している雲から降ってくる雪では、観察される雪の結晶の形に違いがあるということになります。

 

 一方、雪が降るたびに車を走らせ、雪の結晶の観察を繰り返していると、実に様々な降雪に遭遇します。空を覆っている薄暗い雪雲から、針状結晶が突然バラバラと落ちてくることもあれば、雲ひとつ無い空の下で、大きな六花がひらひらと舞い降りてくる不思議な光景に出会うこともあります。また、低気圧の猛吹雪の中で大きく成長した樹枝状結晶を見付けることもあり、よく壊れないで降ってきたなあと感心したりもします。

 

 上空の気象条件を反映して降ってくる雪の結晶ですが、そのような気象現象のドラマを目の当たりにすると、空の上には色々な(気温と水蒸気量の)空気の塊があり、それが常に変化していく中で雪の結晶がつくられているということを正に実感させられます。

雲粒付結晶

          雲粒付結晶

 

 

砲弾組合せ

   砲弾組合せ

 したがって、雪の結晶を観察しようとする時には、きれいな結晶が多く見られる大雪山周辺の地域へ出かけるのが良いと思うのが普通ですが、北海道に降る雪をまんべんなく観察するためには、様々な地域・天候においてくり返し観察を行なうことが大切であると思われます。

雪の結晶の形について

大きく成長した角板

        大きく成長した角板

 

 

つづみ状

つづみ状

 一般に、美しいと言われる形の雪の結晶は、板状結晶の中でも六方対称形の整った「正規六花」と呼ばれるもので、その美しい六花状の姿を見ると、自然の造形とは思えないような神秘性を感じることができます。

 

 雪の結晶の形は、基本的には二つの底面と、六つの柱面でつくられる六角柱であり、柱面の成長が速ければ板状に成長して角板や羊歯状、または樹枝状などの平らな結晶となり、底面の成長が速い時には、針状や角柱状などの細長い結晶になるそうです。そして、柱面の成長が速いか、それとも底面の成長が速いか(平たくなるか細長くなるか)、ということは、雪の結晶が成長する時の温度によって変わるということです6) 

 

 なぜ温度により結晶の成長方向が変わるのかという理由については(これを晶癖変化というそうですが)、少し難しくて荷が重いため触れないことにしますが、その温度は、0℃>板状>−4℃>柱状>−10℃>板状>−22℃>柱状、であり、温度が下がるにつれて3回変化するそうです。

 

 そして、雪の結晶は、はるか上空から地上に落下してくる間に、晶癖変化の温度をまたいで成長してきた時には、つづみ状や平板付き砲弾のような、角柱と平板が組み合わさった形に成長しています。このような晶癖変化による結晶の形の違いは、雪の結晶ばかりでなく、物に付着して成長した結晶である「霜」においても見ることができます。霜の結晶については、後のページで色々な形の霜をご紹介していますので、そちらをご覧下さい。

 また、一見しただけでは、一枚の平板に見える結晶でも、中心付近をよく見ると小さなもうひとつの六角板が重なって付いるのに気が付くことがあります。このような結晶では、六角柱の上下の底面がせりだした状態で成長しているために、二重板の構造となっているということです。したがって、側面から見ると、ちょうど片仮名の「エ」の字のような構造になっているはずです。

 

 さらに、雪の結晶を観察していると、中心に小さな円形模様を持つものがかなりあることに気が付きます。この様な結晶も二重板構造であることが知られていますが 7), 8)、この場合は、小さな円柱で二重板が連結しているため、上から見ると中心に小さな円形模様が見えることになるようです。このような雪の結晶の立体構造については、ギャラリーでご紹介しています。

二重板構造の扇状結晶

    二重板構造の扇状結晶

中心に小さな円形模様がある雪結晶
中心に小さな円形模様がある雪結晶の側面

中心に小さな円形模様がある雪の結晶と、その側面

 また、雪の結晶の中には十二花の結晶があることが知られています。十二花の結晶も複数の板から構成されていますが、こちらは上述の二重板構造とはできる仕組みが異なっており、降ってくる途中で複数の板が付着・併合することで形成されると考えられているようです。このため、十二花の結晶は、最新の分類では分離・多重六花状結晶というタイプに分類されています3)

 

 中谷博士は、その著書の中で、「稀にはこの基本結晶が三枚重なることもあり、その時は十八花の結晶となる」、と述べています9)。実際に、カナダの北極圏では、十八花の結晶や二十四花の結晶が観測されたことが報告されていますので10), 11)、北海道でも、もしかしたらどこかに降っているのかもしれません。

樹枝状六花
広幅十二花
羊歯状十二花

           樹枝状六花

広幅十二花

        樹枝状十二花

参考文献・書籍

    1) 中谷宇吉郎,1949:雪の研究-結晶の形態とその生成-.岩波書店,319pp.
    2) Magono, C. and C. W. Lee, 1966: Meteorological classification of natural snow crystals. J. Fac. Sci., Hokkaido Univ., Ser. Ⅶ 4, 321-335.
        (http://hdl.handle.net/2115/8672)
    3) Kikuchi, K., T. Kameda, K. Higuchi, A. Yamashita and Working group members for new classification of snow crystals, 2013: A global classification of snow crystals, ice crystals, and solid
        precipitation based on observations from middle latitudes to polar regions. Atmos. Res., 132-133, 460-472.
        (https://doi.org/10.1016/j.atmosres.2013.06.006)
    4) 小林貞作,1983:雪の結晶 冬のエフェメラル.北海道大学図書刊行会,39pp.
    5) 村上正隆,2005:降雪雲と降雪分布(降雪の気象).雪と氷の辞典,(社)日本雪氷学会監修,朝倉書店,59-80.
    6) Kobayashi, T., 1967: On the variation of ice crystal habit with temperature. Physics of snow and ice: Proceedings1(1), 95-104.
        (http://hdl.handle.net/2115/20288)
    7) Auer Jr., A. H., 1971: Observation of ice crystal nucleation by droplet freezing in natural clouds. J. Atmos. Sci., 28, 285-290.
        (https://doi.org/10.1175/15200469(1971)028<0285:OOICNB>2.0.CO;2)
    8) 孫野長治,1973:雪の結晶に関する最近の問題.北海道大学地球物理学研究報告,29, 33-20.
        (https://doi.org/10.5331/seppyo.21.186)
    9) 中谷宇吉郎,1994:雪.岩波書店,181pp.
    10) Kikuchi, K., 1987: The Discovery of eighteen-branched snow crystals. J. Met. Soc. Japan., 65, 309-311.
          (https://doi.org/10.2151/jmsj1965.65.2_309)
    11) Kikuchi, K. and H. Uyeda, 1998: Formation mechanisms of multibranched snow crystals (twelve-, eighteen-, twenty-four-branched crystals). Atmos. Res. 47-48, 169-179.
          (https://doi.org/10.1016/S0169-8095(98)00061-1)